白石奈津子 x SDGs

エスノグラフィとは

フィールドでの長期に渡る観察を通して、特定の仮説の検証ではなく、そこで起こっている物事の性質を理解することを目指す調査研究の手法

わたしたちは、フィリピン農村部における民族間関係から共生のあり方を考察しSDGsを達成します。

2つの民族間の関係から「共生」の在り方を模索する

研究フィールドである東ミンドロ州の村落には、タガログとマンヤンと呼ばれる2つの民族が暮らしています。人々の間には民族を始めとした様々な差異(違い)の認識がみられるものの、そこには対立や排除といった言葉だけでは理解できない複雑な関係が築かれているのです。本研究は、人々の持つローカルな知識や実践の詳細な理解を通じて、多様な「共生」の可能性を探求します。

フィリピン農村社会とは

フィリピンは100を超える地方言語、少数言語を抱える多民族国家です。ひとつの「地方村落」という小さな空間を見ても、異なるルーツを持つ人々がともに暮らしている状況がごく当たり前のように存在しています。

タガログ(Tagalog) とは

首都マニラを始めとしたフィリピンのルソン島南部に生活する、タガログ語(Tagalog)を母語とする人々。いわゆるマジョリティ民族。

マンヤン (Mangyan) とは

ミンドロ島に暮らす先住民(Indigenous People)と呼ばれる人々。いわゆる少数民族。ミンドロ島の山間部を中心に生活し、独自の言語・文化を持つ8つのグループが存在する。開発の遅れや貧困、周辺社会で受ける非差別状況などが問題として指摘されている。

生態資源利用の変化が民族間関係に与える影響を捉える

フィリピンは、毎年のように大規模な台風や洪水の被害を経験する「災害大国」です。農業において水は恵みをもたらす資源であると同時に、生産の基盤を揺るがし社会に変化を迫る災害にもなり得ます。

また土地や水源といった生態資源の利用可能性は、民族間関係においても、集団間の対立やステレオタイプに影響を及ぼす重要な要因となっていることが指摘されています。この調査研究では、農業生産の抱える不安定さやリスクへの対処としての生産制度の変化が、民族間関係にもたらす中長期的変化を明らかにします。

生態資源の利用可能性の確保とは

ここでは、何等かの生態資源に関して法的な利用権が整備されていることと同時に、それを自らの目的に沿う形で加工、利用するための知識や技術といったバックグラウンドを個人や共同体が持っている状態をさします。例えば、ある土地や水源に関して法的権利が整備されていても、それが災害などで破壊されてしまっている場合は利用可能性が損なわれていると考えます。

生産現場の問題を知って社会を考える

わたしたちは、食の生産を取り巻く様々な社会状況についての多角的な情報提示を通じて、幅広い意味でのエシカルな消費者の育成を目指します。

白石先生

誰かを「異質な他者」と見る分断の感覚と、同時にそれを決定的な対立に持ち込まない暖味なつながりの感覚は、フィールドの人びとが日々を生きる営みの中に矛盾することなく並存しています。その差異とつながりという両者のバランスを維持させる現場のリアリティを理解し、人と人が共に生きていくための技法を提言していきます。