青木研究室 x SDGs

次世代オミックス技術の開発

オミックス科学とは、生体内分子を網羅的に同定・定量することで生命の動作原理を理解しようと試みる学問体系です。わたしたちの研究室では、高い分離性能を誇るモノリスカラムなどを用いることで、これまで測れなかったものを測るための新たな網羅的測定法や解析法を開発してきました。例えば、機能的ペプチドの網羅的探索法、高いカバレッジと感度を実現するプロテオミクス、シングルセルタイプ特異的プロテオミクス、細胞間機能的相互作用を網羅的に解析可能とする機能的セル・オミックスなどを開発し、オミックス科学の枠組みを拡張してきました。

食品廃棄物を活用し、オミックスによる発酵プロセスを評価

大豆の加工プロセスで生じるおからは、世界で毎年2億6000万トン発生しており、そのほとんどが埋め立てられ環境汚染に繋がっています。わたしたちは、機能改変した酵母を活用することで、おからから有用な化合物を回収することに成功しています。

青木先生

具体的には、高い活性を持つアミノ酸オキシダーゼを酵母に発現させ、おからと混合することで、90 %近い効率で有用化合物であるアンモニアを回収する仕組みを開発しました。今後は、多様な食品廃棄物をターゲットに、付加価値の高い有用化合物を回収する方法論を開発したいと考えています。

優れた微小抗体ナノボディをスクリーニングする方法の開発

抗体は多様な産業にとって重要ですが、優れた抗体の取得にはいまだ多大な労力が必要とされます。その理由のひとつは、実際の利用状態である遊離型の抗体の特性をハイスループットに評価する方法が存在しないことです。そこで、わたしたちの質量分析技術を活用し、微小抗体ナノボディの結合力を遊離状態でハイスループットに評価可能とする新規方法論「ペプチドバーコーディング」を開発しました。

ナノボディとは

ラクダ科由来の重鎖抗体の可変領域で、通常の抗体と比べて同等の親和性を有し、かつ、高い安定性を示します。また、通常の抗体の1/10程度の大きさであるため、微生物による生産性や組織浸透性などに優れ、次世代抗体のひとつとして注目されています。

ペプチドバーコーディングとは

本手法では、各ナノボディに対して、ユニークなペプチドバーコードをエンコードするDNAバーコードを対応付けます。ペプチドバーコードは、質量分析計で高感度かつ特異的に検出できるように設計されています。ペプチドバーコードを持つナノボディライブラリを一斉に発現・評価することで、ナノボディのわずかな結合力の差を区別しつつ、数千から数十万種類の遊離型ナノボディの結合力をワンポットで評価可能です。

青木先生

わたしたちはこのナノボディ探索技術を用いて、がん免疫治療薬や食品機能性成分検出キットとして利用可能なナノボディの探索と開発を試みています。

海洋の食資源を守る

サンゴは、美しい観光資源として有名ですが、海洋資源の維持において非常に重要なポジションを担っております。サンゴ礁には、25 %近くもの海洋生物種が住んでいると言われています。しかし、近年地球温暖化に伴う海水温上昇により、サンゴが死滅する白化という現象が起きており、大きな問題となりつつあります。

青木先生

わたしたちはオミックス科学を用いることで、温度ストレスや酸化ストレスを緩和可能な微生物を発見することに成功しました。また、そのメカニズムが抗酸化機能を持つゼアキサンチンの生産によることを明らかにしました。このようなストレス緩和機能を持つ微生物を育種し、その機能を強化することで、地球温暖化に対して耐性を持つサンゴ礁を形成できるかもしれないと期待しています。

がん疾患へ取組み

がんに対して効果的な薬剤が多数開発されてきましたが、一部のがん細胞が生存して“再発”するという大きな問題が存在します。わたしたちは、肺がんをモデルに臨床検体プロテオミクスを行い、抗がん剤の処理前後でどのようなタンパク質群が発現変動するか探索しました。その結果、がん細胞はYAP1パスウェイにより細胞死を抑制し、抗がん剤から生き延びることを見つけました。

青木先生

抗がん剤とYAP1阻害剤を併用することで効果的ながん治療が可能になるのではないかと期待されます。