陸の豊かさと私たちの生活のつながり
近年、わたしたち人間の活動により地表の自然の75%が改変されているといわれています。森が伐採されるとすぐには再生できず、そこに生息した希少生物や微生物など生物多様性が失われてしまいます。これら森林破壊や砂漠化により動植物が絶滅の危機にされたり、近年の異常気象による被害は、私たちの消費生活に直接影響を受けます。
熱帯雨林の動植物や菌類から発見される化学物質は痛み止めや心臓病、がん治療を含む医薬品などに使われ、多くの恩恵を受けてきました。
しかし、これらの生物が失われることで人類は医薬品の原料を発見する可能性を失ってしまうかもしれません。
わたしたちは、「陸の豊かさ」というグローバルな公共財を保全するために国際社会はどのようなアプローチを試みているのか調査しています。では、森林破壊の大きな原因と言われている農業に注目して、アブラヤシの事例をご紹介します。
アブラヤシとは
アブラヤシはインドネシアやマレーシアで多く栽培され、パーム油が生産されています。日本の食品表示では「植物油脂」「ショートニング」「マーガリン」の原料として知られていて、インスタントラーメンの揚げ油やチョコレート、石鹸や化粧品などの原料にも使われています。
- 背景
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一年中収穫することができ、生産性が高い上、比較的安価で供給されているので需要の増大に応えるため農地を拡大。既に開墾された土地の他に新たに熱帯雨林を伐採して行われました。
- その結果・・
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ボルネオ島のオラウータンの生存が脅かされることになり、パーム油産業が生物多様性を犠牲にしている象徴に。炭素を含む泥炭地が開墾されると温室効果ガスが多く排出されました。さらに、土地の所有者が曖昧な地域では住民の生活が侵害されたり、農園で働く労働者の人権侵害も報告されました。
- 直面する課題
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とりわけ、人口が増え続ける途上国にとっても植物油は欠かせない存在。また、需要の減少は小規模農家の生活に打撃を与えてしまいます。
- ブレイクスルー
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森林破壊がどのように起こっているか理解し、世界の食料としてパーム油が必要であること、森林や生物多様性を守り、生産者の貧困から脱するための仕組みを提供することを同時に考えていくことが重要です。
持続可能性認証の導入
パーム油生産と森林保護を両立するための取り組みとして、農家がアブラヤシを育てている土地が森林伐採をした土地でないことを示し、さらに労働や人権などの持続可能性の基準を満たしたうえで、それを専門の監査会社が確かめます。適正であれば、企業はそのパーム油を使った商品に「持続可能性認証」ラベルを張ることが出来ます。消費者は、これらのラベルがある商品を手に取ると、森林破壊が起らないよう配慮して生産された原料を使っていることを確認して購入することができます。
しかし、2020年時点でRSPO認証油はパーム油全体の2割程度に留まっており、2割の認証で温室効果ガス削減を行っても全体では温室効果ガスが増加し、問題が解決されない恐れがり、また認証に係る費用のため価格が高くなる結果、開発途上国ではほとんど使われていないのが実情です。欧州政府はパーム油が森林破壊や地球温暖化に悪影響を与えているとして持続可能なバイオ燃料と認めず輸入を削減して2030年までに利用をやめる規制を導入しました。生産国政府は生き残りかけてイノベーションを作り出していくことを、引き続きヒアリングなどを通して調査していきます。